初出原稿『国民経済雑誌』昭和27年1月号(第85巻、第1号)
1.経営士学
経営コンサルタントには、知識(学)、技術(方法)、哲学(心のものさし)
の自得が求められます。
経営の学は、総合的大観から、経営者経営学、経営コンサルタント経営学、
学者経営学に整理されます。
経営士学は、経営コンサルタントの視点から体系化された経営の知です。
2.経営士、日本経営士会
経営士の自治団体 日本経営士会は昭和26年10月に設立されました。
設立の経緯は「当時、経済安定本部の役人をしていた人が、アメリカへ行って、
向こうのコンサルタント業の活躍ぶりとその重要性を認識してきたことが直接
的なきっかけとなったのですが、そこで純技術のほうは技術士、経営のほうは
経営士という名前をつけ、前者は科学技術庁の所管で国家試験制にし、後者は
通産省の所管で民間団体にゆだねるということになって、この経営士会は誕生」
(日本経営士会第三代会長上田武夫)しました。
日本経営士会はその発足にあたり、会長工学博士 加茂正雄、副会長 日本経営能率研究
所所長 荒木東一郎、副会長日本能率協会理事長 森川覚三、理事 神戸経済大学教授
平井泰太郎、全日本能率連盟会長・人事官 上野陽一、東京計器製造所 上田武人、東京
都商工指導所 中西寅雄、株式会社商業界倉本長治(平井泰太郎編『経営コンサルタン
ト』東洋書館、 昭和27年4月発行)らを迎え、実践と理論の合一をめざしてスタート
しました。第1回の経営士の登録者数は50名でした。
経営士の名付け親、経営士学の提唱者
平井泰太郎先生(1896ー1970)
出所)http://www.chikura.co.jp/keyworg
日本で最初に開業した(大正12年)、マネジメントコンサルタント
(社)日本経営能率研究所 会長 荒木東一郎先生(1895ー1977)
出所)『実践経営学ー続能率一代記ー』(同文館、昭和47年発行)
日本で最初にマネジメントコンサルティングを実施(大正9年)した
産業能率大学上野陽一先生(1895ー1977)
出所)https;//www.sanno.ac.jp/admin/founder/
経営コンサルタンという職業には、公認資格はありません。
公認資格とは医師、弁護士、公認会計士税理士などのように、その資格を保有しないと開業
できない業務独占資格です。
これはわが国だけでなく他の国でも同様です。そのため各団体が自主的に認定基準を設けて、
肩書を付与しています。
現在、経営士の名称をネットで検索しますと、一般社団法人日本経営士会認定経営士をはじ
め同会認定環境経営士、NPO日本経営士協会認定経営士から、農業経営士、物流経営士、
SC経営士、医療経営士、等々、今日では幅広く使用されています。
3.経営士学学会
経営士学は、わが国初の経営学博士故平井泰太郎先生が「アメリカに於けるマネージメント
コンサルタント(Management Consultant)と同じ趣旨を持つものを経営士と命名し、
経営士は経営に関する顧問・診断或いは指導を行なう ことを業とする者である」(原文の
ママ)と紹介したうえで、
「経営学の中に、経営士学としての経営学が発展すべき要請が存在することもまた知らなけ
ればならぬと思う。」(「経営士の誕生」国民経済雑誌、昭和27年1月号)と述べられたこ
とに始まります。
しかしながら「実践と理論」「学説と応用」には、壁があります(平井泰太郎『この壁を
破れ』日本能率協会、昭和36年)。
その壁を乗り越える提案が、経営士学でしたが、日本経営士会のなかでは、平井博士の提案
は忘れられていきました。
経営士学学会は、日本経営士会所属の有志によって、2008年10月22日に設立されました。
学会は年1回 経営士学フォーラムを開催し、経営士学誌を発行してきましたが、
新型コロナウイルス感染予防のため活動を休止しました。
2022年1月、経営士学が提唱されてから70年。
経営士学学会設立から15年、
を記念した出版助成金をえて、『井上円了の哲学から経営知を語る』(三恵社)が出版さ
れました。
執筆者として、経営士学学会会員の皆様には深甚の謝意を申し上げます。
4.上級経営士の会
戦争・テロ、自然環境の破壊、貧富の格差から、賄賂、偽装、粉飾、モラル・ハラスメント
等々に至るまで、モラルの荒廃は、先進国・後進国、資本主義・社会主義・共産主義、他
あらゆる主義、思想に関係なく、現在もつづいています。
くわえて、データサイエンス・AI(人工知能)など、科学・技術的側面の進歩とモラル
的側面の相克が生じています。
経営コンサルタントは、コンサルティング技法・技術が未熟では、虚業と呼ばれます。
経営心学(moral philosophy)が欠落したコンサルタントの跡には、ペンペン草も生えない
といわれます。
実際の学である、経営士学は、人間の学です。
経営コンサルタントは、人柄と技法から、上級、中級、下級にわかれます。
上級は、事業体のモラル・フィロソフイを診るコンサルタントです。
江戸の経営コンサルタント二宮尊徳が「我が道は、人々の心の荒蕪を開くを本意
とす」と述べていることです。
中級は、コンサルティング技法中心のコンサルタントです。
経営コンサルタントを産業と位置づけます。
コンサルティング技法をとおして、クライアントへの請求単価を高め、コンサルタ
ントの年収を優秀さの証と考えるコンサルタントです。
下級は、流行の経営を追いかけるコンサルタントです。
事業の先端知識・最新情報を提供する評論家的コンサルタントです。あるいは、
一つの対処療法的コンサルティング技法でもって、事業は成功すると嘯(うそぶ
く)コンサルタントです。
温故知新。
敗戦後、昭和24年9月から昭和25年1月まで開催された『C・C・S・経営者講座』が、
わが国の経済成長をもたらした、経営の原点です。そこには、こう述べられています。
会社の存立目的は何か。「当社は、良い船を造るものとする。できれば利益を得たいが、
やむをえなければ損をしてもよい。しかしつねに良い船を造ることを念願とする。」
これが、この会社の指導精神であり、基本方針である。これは、数言をもって企業存立の
全理由を示し、かつそのなかには、品質を利益よりも重視し、逆境に陥っても事業を放棄
せず、最良の生産方法を発見する決意などが示されていて、実に豊富な含蓄がありまこと
に優れたものである。
(日本電気通信工業連合会 経営管理研究会訳編『新版C・C・S・経営者講座』ダイヤモ
ンド社、昭和33年)
上級経営士の会は、経営心学を基調とし、事業経営を支えてまいります。
【目的】
経営士学を研究する在野研究者の定期的な情報交換。
【入会の条件】
1.独立経営コンサルタントであること(サラリーマン・コンサルタントや会社員でない
こと)です。
2.独立経営コンサルタントとして30年ほどの経験があり、現役であることです。
3.著書・論文の実績があることです(たとえば、論文3本、単著1冊、編著2冊程度)で
す。
4.本会は、異業種交流会ではありませんので、他の業種(たとえば、弁護士・税理士・
社会保険労務士やカウンセラー、コーチング、ファシリテーター、インストラクター、
セミナー講師)の申し込みは、ご遠慮ください。
上級経営士のイメージは、剣道でいえば八段、時計職人でいえば独立時計師
の境地をめざす、経営コンサルタントです。